山月記

隴西の李徴は、汝水のほとりに発狂した。

山月記

臆病な自尊心

そうだ。お笑い草ついでに、今の懐いを即席の詩に述べてみようか。この虎の中に、まだ、かつての李徴が生きているしるしに。
袁傪はまた下吏に命じてこれを書きとらせた。その詩に言う。

偶因狂疾成殊類 災患相仍不可逃
今日爪牙誰敢敵 當時聲跡共相高
我為異物蓬茅下 君已乘軺氣勢豪
此夕溪山對明月 不成長嘯但成嗥

時に、残月、光冷ややかに、白露は地にしげく、樹間を渡る冷風はすでに暁の近きを告げていた。人々はもはや、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄幸を嘆じた。